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6mAMハンディトランシーバ



 携帯性が良く、ヘリカルアンテナを着けて簡単に運用できる6m用AMトランシーバが欲しくて製作しました。


【計 画】

 バンドモード 50MHz AM (A3E)
 形 状  ハンドヘルド形で外部アンテナおよび直付けでヘリカルアンテナを
      使用でき、乾電池運用が必須
 CH数  3cH(JR3KQF局頒布の2cH+予備1cH)
 送信部  出力150mW以上
      できればスピーカマイクも使いたい
 受信部  IF455kHzシングルスーパー
      感度はQRPで飛ぶ範囲が聞こえれば、やや悪くても良い
      できるだけSメータは欲しい


【ケース入手】

 運用時のイメージに合うケースが市販品から探しだせなかったので、ハムフェア'09で流用できそうなCBやアマチュア用ハンディ機を探し、見つけたのがスタンダードC410(故障品)です。
調べて故障箇所は判ったのですが、メーカーに部品が無いので修理を諦め、ケースを再利用することにしました。
実は期待していたメータも故障していて動作せず、内部を修理して復旧しています。
最初に基板サイズと電源(単三6本)が決まってしまいました。
左写真はC410オリジナルの姿で、IC-3Nなどと同じサムホイールスイッチ(SW)が見えます。
後で3接点ロータリSWに交換しています。

内部は基板2枚で構成されていますが、普通に入手できる部品を使うので高さの関係で基板1枚しか入れられません。
回路基板をこのケースに収まるサイズに作れるかが最大の難関です。

VOLとSQLは再利用、コールCH スイッチはメータランプSWに転用し本来のランプスイッチ(PTT下の小さいオレンジボタン)は不使用、右側面のDCジャックは残したかったのですが収めきれずに撤去しました。


【回 路】

 回路図には欲しい機能をできるだけ事前に盛り込んでおくことにしました。
後から送受信機能だけの簡易形を製作することも考えています。

送受切替はリレーレスでスタンダード/ICOM用のリモートマイクに適合します。
Sメータとスケルチについては当初実装を心配して簡略化したため動きが悪く、結局気に入らずに小基板を追加して両方とも改善しています。
下の回路図は最新のものです。

*変更情報*
2009.11.12
・周波数の高いチャンネルの受信感度が下がっていることが判ったので、対策の
 ため送信側アンテナ切替用PINダイオードを受信トップ直近に移動しました。
・Poメータの指示が低めだったので検出回路の定数を変更しました
・強信号受信時にRFAGCの効きが悪かったので制御回路の定数を変更しました
2009.11.24
・50.600MHz水晶の発振不安定対策として発振回路B-E間にCを付加しました

     
クリックすると拡大します↓


部品表はここを→クリック

送信部は150mW以上が目標なので2SC1815Y(ピアスCB)〜2SC1906〜2SC2053の3ステージ構成です。
発振部は水晶に合わせる回路定数にしています。
ドライバには高利得のトランジスタを使用し、終段部はFEMTOで実績のある回路を流用しています。
終段同調コイルは計画100mWを越えるため10Sタイプを使っています。
高調波はトロイダルコイルを使ったT形フィルタと、Poメータ用の整流回路でも発生しますのでカップリングコンデンサに直列抵抗を挿入しています。
T形フィルタは計算上Zo=51Ω、fc=58.9MHz付近となり、試作では単体の実測ロス0.44dBでした。 出力が10%下がる計算ですが高調波対策には欠かせません。

受信部は自作例の多い2SK241〜LA1600〜NJM386Dのシングルスーパー構成です。
付属回路としてはアンテナ切替を兼ねるPINダイオードによるRF-AGCと、入手したケースに合わせてSメータ、スケルチの回路を載せています

当初設計ではSメータはLA1600の9番ピンからエミッタフォロワで取り出し、6番ピンはRFAGCとスケルチ制御用に使っていました。
(関連部分の当初回路は→ここをクリック
調整段階でSメータが弱い信号で振れてくれないのと、簡易型のスケルチも切れが悪すぎたので単電源オペアンプLM358Mを使ったスケルチユニットを追加し、Sメータとスケルチの動作をまとめて改良しています。
回路図の下の方にある点線内が追加された部分で、左側が2倍の増幅部、右側がスケルチ開閉を制御するコンパレータとして動作しています。
メータ回路への出力にあるダイオード2個はゼロ点調整用(カラS防止)です。
これら回路は当初設計の回路に付加する形で考えているのと、実装上の制約もあって最適化できてない部分が残っています。

送受切替はスピーカマイクが使える構造とし、リレーレス方式です。
リレー式の方が回路が簡単でロスも少ないのですが、部品が収まらない不安がありましたので配置の自由が利く方を選びました。

電源は、本体のDCジャックを残すことが難しかったので電池専用としました。
電源切替はよくあるPNPとNPNトランジスタの組合せによるスイッチです。
受信部と変調器の2個のNJM386Dは常時給電し未使用時は2番ピンに電圧を加えてミュートし電流を低減しています。
送信ドライバと終段も常時給電ですが、Cクラスなので送信時以外は電流は流れません。
電力の大きい部分に常時給電することで電源切替部の扱う電流を小さくするのが狙いです。

メータ照明用のLEDも入れています。
送受信に必須の部分よりだいぶオマケの回路が増えました。


【実 装】

まずケースまわりから加工です。
C410を分解し既存基板とサムホイールSWを取外します。
この時に紙を新しい基板と同じサイズに切ってフレームに嵌めていますが、基板が出来上がってみると予想外の干渉で少し削った所が出ました。
幸いGNDパターンで余裕がありましたので削れましたが、場所によっては大変な作業になるところでした。

チャンネル切替のロータリSWは小さい物が必要なのでMR3-3-Z(フジソク)の端子を少し切って使うことにしました。
サムホイールSWの跡地に銅板で金具を作って取り付けています。
CH目盛板は黒いフロッピーディスクのケースを切ってレタリングしたものです。
DCジャック部はフレームの穴の外側に銅板を接着し、さらに四角に切った黒いスポンジを貼ってケースの穴埋めをしました。
ロータリSWは組立後に端子が隠れるので、ボリウム等と共に事前にリード線を取り付けています。

プリント基板は調整段階で追加したスケルチユニット以外は82mmx55mm t=1.6の片面基板になんとか収めることができました。
片面基板で狭いのでハンダ面にジャンパーが結構飛んでいます。
今回の基板で回路規模に対する基板サイズの限界が見えてきた気がします。

基板は版下をOHPシートに印刷して市販の感光基板で製作しています。
2回重ね印刷して遮光性を高くする作戦で感光失敗が減りました。
基板は原則として最小ランド2φ、最小パターン幅0.5mm、パターン間隔0.5mm以上で設計しています。

エッチング後の基板ではパターン間隔が設計より狭くなっていたので、特に狭い一部は修正しています。
ランドやパターン間隔が狭いのでハンダブリッジには特に注意が必要な基板です。

後付けのスケルチユニットは表面実装形のオペアンプと市販の変換基板を利用して薄く作り、ハンダ面とリアカバーの間に挟む形で実装しています。(写真下段右参照)

基板に使用する部品はサトー電気で調達可能な物を選んでいます。
抵抗はS2サイズ(小さいタイプ)ですがS1サイズでも実装できると思います。
コンデンサのうち電解はケース高さに余裕があるので一般品です。
セラミック0.1uFは積層2.5mmピッチ品、その他容量は普通の小型50V円板型です。
AF系に一部ポリエステルフィルムコンを使っていますがセラミックも使えます。
マイクロインダクタはインダクタンスと自己共振周波数の関係で送信終段部のみ両リード形を使用しました。 

マウント済基板は部品面を既存フレームの位置決め突起に当て、基板外周のアースパターンとフレームの間をメッキ線で何箇所か接続して固定しています。

メータランプは元々メータ前側の狭い隙間に麦球が取り付けてあります。
交換が大変なので白色LEDに代えてメータに貼り付
ました。(写真下段中参照)

スケルチユニット表面 スケルチユニット裏面 完成したスケルチユニット
メイン基板は82mmx55mm 部品側配線 ハンダ面配線


【調 整】

 ケース実装後は部品交換による調整がやり難くなるので、基板単体調整を念入りにおこないました。

基板単体では、まず極性のある部品とハンダブリッジの目視チェックです。
なにしろパターン間隔が狭いので何箇所もブリッジしているかもしれません。

通電はアンテナ代わりのダミー抵抗とボリウム・スピーカを接続し、電流を確認しながら徐々に徐々に電圧を上げて行きました。
受信系の電圧(約5.5〜5.7V位)が出ていれば一安心です。

今回の受信部はSGからAM信号を加えたら弱く信号が受信できましたので、すぐにピーク調整ができ、良い感じに聞こえてきました。
局発周波数はぴったりで、感度も前に作ったCBハンディ改より良い感じです。
RFAGCの調整で100dBu.EMFの強信号も潰れずに変調音が聞こえていて十分な性能です。
Sメータとスケルチもスケルチユニットの効果で良い感じで働いています。 
メータの振れ具合は感覚で決めました。(測定値は後述)

次に測定器を接続して送信に切り替えると、いきなり数十mWの出力が出てきたのですが、25MHzの整数倍に信号が見られます。
自励発振が50MHzの信号にロックしている状態です。
各部のコアとLPFのトリマをピーク調整していくと信号は綺麗になり、出力も順調に増えて250mW以上でてきました。
ただし調整状態によっては変調を掛けると異常な発振を起こしたりスプラッタが出ることがあり、変調を掛けた状態で追い込み調整する必要がありました。
FCZコイルのピークが中心付近1箇所しか取れない箇所は共振コンデンサを大きくして、奥側と抜け側2箇所ピークが出るようにしています。
調整してみると2箇所のピークで動作が違っていて、終段は奥のピークを使ったほうが安定するように思えます。
送信周波数は低めですが問題ない範囲です。
変調されたサイン波形は綺麗で、肉声も良い音がしているのでOKとしました。

ここまでの調整後にフレームへ組込と配線を行い、動作確認をしました。
組込後も異常動作や調整ズレは見られず、基板は安定に動作している様です。
フロントカバーにあるマイクと送信部が直近になるので、回り込みを心配しましたが、これも問題ありませんでした。

次にアンテナをヘリカル(ミズホピコ6用)に交換すると、発振が生じて±10MHzに余分な信号が出ていることが判りました。
別の自作機でも異常発振が止められなくてヘリカルの使用をあきらめたことがあったので、いやな予感がよぎります。
試行錯誤して終段同調コイルをQダンプし、アンテナからの電波が強くなるよう終段を再調整することで安定が動作しました。
調整が不十分だと、深い変調を掛ける/ヘリカルの先端を握る/スピーカマイク使用のいずれかで異常発振が生じました。 調整後の確認が必須です。

ボトムローディング形λ/4ホイップアンテナはダミーで調整した状態でそのまま使えたのですが、このヘリカルは難物です。

ヘリカルアンテナに合わせてピーク調整したので、終段部の調整状態がダミーでピーク調整した状態とずれています。
この状態でダミーや良く調整されたアンテナにつないで正常に使用できすが、ダミーで調整した場合に比べて出力が10%程低くなりました。
変な電波は出せませんので、やむを得ないところです。
高調波はダミーでの調整時と変わらず、法令の規制値には余裕があります。
Poメータはこの状態で目盛8付近に設定しました。


【測定結果】

 以下が総合調整後の測定結果です。

 送信系 CH1 出力228mW 周波数50.54954MHz 高調波-26dBm(2.5μW)以下
     CH2    220mW     50.59935MHz    同上
     消費電流 無変調時180mA 音声変調時約340mA最大 DC9V時
      (いずれもメータランプOFF、ダミーでピーク調整した場合です
      Qダンプしない場合の出力は約250mWでした)
       □高調波は法令規制値(50μW)に余裕で入りました


 受信系 CH1 S/N10dB感度+1dBu.EMF(0.56μV) 局発周波数50.09507MHz
     CH2       +2dBu.EMF(0.63μV)      50.14506
       □感度は十分実用範囲です

     Sメータ指示 0  2  4  6  8  10
         CH1 * 4  12  16  20  35  68 dBu.EMF
         CH2 * 8  16  19  23  38  70
       □感覚的には良い感じでメータが振れます *振れ始め

     SQL開放感度 
            CH1 1dBu.EMF
            CH2 1dBu.EMF
       □メータが振れない信号でもスケルチが開きますが、オンと
        オフの差が小さいのでバタつくことがあります

     消費電流  無音時 20mA 変調信号受信時 約50mA DC9V時
                        (メータランプOFF)

 重 量  490g(単三6本、ベルトクリップ、ヘリカルアンテナを含む)

  
(注)測定系は50Ω dBu.EMFは開放端電圧値のためJAIA表記(終端値)より6dB大きい値になります
CH1 最大の2次高調波で-26dBm CH2 CH1と全く同じ-26dBm  使い回しではアリマセン
*左端の山は基準信号(0Hz) 横1目盛50MHz 目盛上端が30dBm(=1W)縦1目盛10dBです

【製作を終わって】

 使うシーンを想定して計画したセットなので、はやくフィールドに持ち出してみたい1台に仕あがりました。

出力は約200mWあり変調も良好、受信部もLA1600を使ったシングルスーパは初めてでしたが実用的な感度が得られていますので、平地ではつらいですが小高いところにでも移動すれば十分に使えそうです。

自宅で使用したところ、送信音質は良好というレポートを頂きました。
受信感度は当初から予想したとおり低めですが内臓スピーカーが結構いい音で鳴っていて使用感は悪くありません。
強力なSSB局が居ると被ってきますので、ハンディ機で時々見られるように、大きなアンテナをつないで運用するのは辛い場合があります。
RF-AGCの無いペンケース機より被り具合は少ないことも判りました。


【CH3:50.620MHz追加】2009.11.6

 A電子からCH3増設用のHC49U形50.620/50.165MHz水晶セットが到着しました。
HC49USでは再現性が取れないということで、実測周波数を添えたHC49U形50.620MHzをサンプルとして送って作ってもらったものです。

受信では特注水晶の発振レベルがCH1:50.095/CH2:50.145MHz(HC49US)より2倍ほどあり、水晶のアクティビティにかなり差があることが判りました。
周波数の誤差はAMでは無視できる範囲です。

送信では特注水晶は周波数ドンピシャかつ十分な強度で発振しましたが、CH2: 50.600MHz の水晶が影響を受けて発振強度が下がってしまい、発振回路を再調整しました。
出力はCH1:50.550/CH3:50.620MHz とも約200mW、CH2約180mW、高調波-25dBm以下でした。
(ヘリカルANTに合わせて調整したあった状態で測定器につなぎ換えて測定)


【TXOSC改善】2009.11.24

 50.620MHz水晶を追加した際に発振強度が下がった50.600MHzの送信水晶ですが、調整により多少弱いながら発振してたのが寒くなってきた影響からか立ち上がりが遅かったり、送信開始時に振幅が一度小さくなる症状が出てきました。

コアを回してみると、50.600MHz水晶は同調回路のピーク付近でないと大きな振幅が出ず、発振状態に余裕が無いことが改めて判りました。
発振回路はコアを回した時にピークよりレベル変動のなだらかな側に少し下がった点に調整するのが常道ですので、これでは安定な発振は期待できません。

まず50.600MHzを選択した時に50.620MHzの水晶両端をショートしてみましたが変化なく、水晶自体が干渉しているわけではありませんでした。

次に、前に行ったRJ-370改造で発振が不安定になる現象の対策として、一時期発振用トランジスタのB-E間にコンデンサを付加していた経験から5pFを付加しました。
付加後50.600MHzの発振強度があがり、立ち上がりも早くなっています。
結果から発振条件としてB-E間のキャパシタンスが足りなかったということでした。

 変更後の状況
  CH1 出力 209mW 周波数 50.54940MHz 高調波状態に変化無し
  CH2    201mW     50.59900MHz  〃
  CH3    193mW     50.61987MHz  〃
(ヘリカルANTに合わせて調整したあった状態で測定器につなぎ換えて測定)

 周波数は全体に少し下がりましたが、各水晶は安定動作となる調整点で十分な発振強度があり、50.600MHzの発振立ち上がりも他の水晶同等になりました。


【受信回路改善】
2009.11.12

 50.550と50.600MHzの2ch実装の時にも50.600MHzの感度が低かったのですが、50.620MHzはさらに低く、ハイチャンネルほど感度低下が目立ちます。
回路自体は実績がありますので実装方法が影響していると考えました。

実際に、アンテナ切替回路の受信トップのPINダイオードに接続されていた送信側PINダイオードに結がる同軸ケーブル(条長15cm程)を外すと感度が均一化したので、同軸ケーブルが影響していたことが判りました。
同軸ケーブルの影響を受けないよう、送信側PINダイオードを受信側PINダイオード直近に移動して対策できました。

この変更で送信側への影響はありませんが、Poメータの指示がもともと低めだったので検出回路の定数を変更しています。

また80dBu.EMF程度の信号が受信できていたので気づかなかったのですが、RF-AGCの減衰量変化が少ないことも判りました。
制御回路の定数を変更しましたので、AGCレンジが広がり、現在100dBu.EMFの強力な信号も潰れずに聞こえています。

メータランプ オン(上)、オフ 手持ち時 一見2m機です SPマイク接続

                                      (C)JA1VZV 最終更新2010.01.10




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