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コンデンサマイク回路でPTT制御を行う回路への
TA2011Sの適用検討 v2〜v3

フレーム

 ALC-ICの定番TA2011S(廃品種ですが今のところ入手可能、セカンドソースSA2011は未テスト)に、アイコムなどに採用されているエレクトレットコンデンサマイクの回路を断続してPTT制御を行うマイクに接続すると、PTT操作時に出力音声レベルが大きく下がる現象が発生します。
今まではマイクを改造してPTT回路を別にすることで影響から逃れていましたが、無改造のマイクが使えれば好都合ですので、今更ですがTA2011S側回路での対応を考えることにしました。

この方式のマイクでは、マイクの音声回路に重畳された直流がPTTボタンを断続する度に数V変動し、IC入力のカップリングコンデンサを通ることで微分パルスとなります。
このパルスのピーク電圧は元の電圧変動分と同じなので、大きくても数十mV程度のマイク音声より格段に大きく、これが入力されることで音声まで大きく下がる現象が起きているわけです。

またTA2011S自体にも、アタックが遅くて大きな信号が突き抜けるという問題があります。

原因が判っているので対策回路を組み込みました。

1 パルスが生じる期間中、マイクアンプのゲインを下げる
  アナログスイッチ等でICの入力を遮断する方法もありますが、簡単な方法を考え
  ました。
  TA2011Sの2番ピン(マイクアンプのゲインを決定する)をコンデンサ経由で直接
  接地するとゲインは47dBですが、100kΩを通すことで約7dBに下がります。

  ゲインの切替はMOS-FETを使用し、受信中は7dB、PTTオンから抵抗とコンデン
  サで遅延した時間後に47dBになるよう動作します。
  MOSの高入力抵抗を生かし、小形のコンデンサが使える定数にしています。

2 パルスのピークをカットする
  パルスが大きいため、マイクアンプのゲインを下げただけでは、まだ送信頭の音
  声レベルが下がります。
  そこでショットキバリアダイオード(SBD)でクリップすることにしました。
  SBDの効果で数Vあったパルスが0.3V程度に小さくなります
  SBDの順方向電圧より音声信号は十分小さいので影響はなく、ダイオードからの
  ノイズも問題ありません。

3 TA2011Sのピーク抜け対策
  前の2対策でPTTが原因の問題は解決しましたが、TA2011Sのアタックタイムが
  50mSもあるため、大きな信号が入ると、押さえ込むまでに突き抜ける大きな信号
  がAMの過変調による音質不良やAMキャリヤのシャックリを引き起こすという問題
  が残っています。
  これはSSBでも過大入力でスプラッタが出る可能性があるということです
  そこでTA2011SのALC動作時出力レベルを超える信号をクリップすることにしまし
  た。
  クリップ回路は一般のSiダイオードを使い、分圧抵抗で実験的に動作点を決めて
  います。
  現在の設定はダイオードを付加したときに0.5dB程信号が落ちますが、マイク音声
  では影響は感じられません。
  ダイオードの温特が悪くドライヤで暖めたるとクリップレベルがやや下がりますが、
  音声では判らない程度なので良しとしました。

以上の対策で気になる不具合は回避できました。
組み合わせているFT-817NDはAMのキャリヤ出力(最大)を600mW、マイクレベルを13に設定していますが、ボックス内のボリウムで音割れやキャリヤのシャックリのない良い音に調整できています。
AMで低出力に切り替えた時に出やすかった変調ピークでのキャリヤ途切れも解消しました。

SSBモード(工場設定のまま)の送信では音質変化はマイクの差程度しかありませんでした。
付属マイクよりピークが出なくなっていますのでスプラッタ防止を期待したいところです。

受信に戻る時に、送信信号の最後に乗っていたPTTに起因する大きなクリックノイズもクリップされて、かなり減りました。

欠点ですが、追加した回路の副作用で電源立ち上げから動作状態になるまで15秒程掛かるようになりました。
正常な動作状態になる前にPTTを押すと5秒ほどは音が出ない状態になりますので、運用上注意が必要です。

電源を入れてすぐに送信することもないでしょうから、あまり問題は無いとは思います。
IC2ピンのケミコンの−側を接地しておくとすぐに立ち上がるので、このコンデンサが充電されるまで無音になるのではないかと考えています。  2013.5.15青色部分修正

PTTオフ時にはゲインを下げる回路が働かないため、音声抑圧の問題が生じますが、受信中なので、これも問題ないでしょう。
PTTオフ時の抑圧は、ブレークタイムを取るような場合に影響しますが、受信時間が1秒ほどあれば送信頭での影響は気にならないと思います。

最新の回路図を掲載します。
2013.2.20 IC2ピンのケミコンを実装状態に合わせて図面訂正しました:10uF→33uF
       声質によっては10uFのままの方が良い場合があります。


・赤字で示した部品は、対策のために標準的な回路に追加した部品です。
・出力レベルは一般的な送信機のマイク入力用に設定してあります。
・IC出力は実装の都合で1uF→33kΩの順ですが、逆でも構いません。
・出力クリップレベルを調整したい場合は33k-22kを、例えば27k-10kVR-18kにする。
・今回使用のRFCはFB225-43 6穴使用0.5φUEW(もう少し細い方が楽に巻けます)
・PTT制御回路は、今回の試験用ですがFT-817等で使用できます。
(図をクリックすると拡大します↓)



FT-817への応用

 実験に使用したTA2011Sの回路をJH7OZQ荒井氏発表のFT-817スピーカマイク接続ボックスの基板部分と置き換えて製作してみました。

 元記事はこちら→http://www.ac.auone-net.jp/~jh7ozq/index.htm
            FT-817用 SP-MIC接続器(コンプレッサー付)

完成するとこういう形状になります。

このボックスは、FT-817のマイクジャックとSP/Phoneジャックに差し込むことで固定され、アイコム・スタンダード系スピーカマイクが使用できるようになっています。
部品の実装検討です。
TA2011Sの標準的な回路より部品が増えているので、まず図上で部品をならべて、納まるかを検討しました


すこし複雑な形のプリント基板を起こさないと組込みが難しいですが、納まることはわかりました。

図は最新回路に対応したパターンになっています。
作ったプリント基板をケースに入れて、納まるか確認しているところです。
写真は初回作の基板ですので最新パターンとは違います。

ケースは元記事どおり、シールドのメッキがあるタカチESW-40Bを使用しています。

スピーカ用プラグとジャックはマイク系のアースと接続しないようメッキを削って絶縁しました。
基板に部品を搭載し、ケースに組み込んだところです。
基板はパターン面に部品を取り付けてあり、部品とプリントパターンがケースのメッキ部分と接触しないことを、この段階で確認しています。

プリント基板はモジュラジャックからの太目の単線に押えられて動きませんので、接着はしていません。 
この時点ではスピーカ系のフェライトビーズは未装着です。
使う時の姿です。
SONY印のスピーカマイクはアイコム接続になっています。

FT-817の上にある糸の付いた白いもの(線名札です)は、接続ボックスを取り外す時にモジュラージャックの爪を押すのに使用します。

完成後、フィールドに持ち出して回り込みのテストを行った結果です。

FT-817のリア側コネクタにホイップアンテナRHM-8Bを直結した場合、7〜50MHzで回り込みなど異常は出ませんでした。

フロント側に付属の6m用ホイップを取り付けた場合、マイクコードをアンテナに沿わせてマイク本体をアンテナの先端に近づけると無音になることがありました。
普通はわざわざこんな事しませんし、異常になっても無音になるだけなので、汚い電波を撒き散らす心配はなさそうです。
マイクコードがアンテナとクロスして接触する程度では異常ありませんでした。

2013.2.24加筆
 2mと430MHzAMでスピーカマイクのカールコードとアンテナが接近すると、ハウリングが起きることがあると判り対策をしました。
マイク入力のグランド側にRFCを入れたところ、かえってハウリングしやすくなりましたので、この方法は失敗です。

 前掲の回路図にはスピーカ系の回路図がありませんが、FT-817の外部SP端子をスピーカマイクのジャックに中継しています。(アースは送信系と分離しています)
そのホットとコールド各線にFB101フェライトビーズを2個ずつ挿入したところ、2mではあえてマイクを近づけない限りハウリングは起きなくなりました。
430MHzはハウリングが起きることがあるのでマイクとアンテナの位置関係に、多少気を使う必要があります。
6mではハウリング、マイク無音といった症状が起きなくなくなりました。

実際にAMを使う機会は6mがほとんどなので、今回の対策はここまでとしました。


FT-817NDとの組み合わせ調整について
2013.8.26加筆
 このユニットを実際に使用するに際してはFT-817ND側の設定を変更しています。
MIC接続ボックスを発案されたJH7OZQ荒井氏は本体無調整でユニットを追加されて迫力のある音を出されていますが、本記事では所持する1台以外の状況が判りませんので原理的に安全サイドの調整方法としました。

調整の要点を書いておきますが、メニュー(特にマニュアルに無いアライメントメニュー)を変更した場合の影響について理解があること、測定器などを用いて動作確認できることが前提になります。
個体によって設定数値は異なりますので具体的な数値は表記しません。

【注意】
 設定値変更は機器の故障の原因にもなり得ますので、作業は自己責任で行ってください。


1 なぜAMの音が悪いのか
 FT-817シリーズを使われてAMに出られる局で、音割れとか変調を掛けると信号が弱くなるという症状ある局から今まで状態を聞けた全ての局が工場出荷のまま使っています。
同様に音の良い局に聞くと設定変更などで調整しています。
筆者のセットも同様でした。

カタログではAM出力は1.5W(出力最大設定時)となっています。
実機でも出荷状態のAM無変調時の出力はかなり変動しますがそれくらいです。
他のオールモード機でもSSB定格出力の1/3位が相場のようですから、カタログ値としては普通です。

しかしながら100%AM変調された波形を考えると、変調ピークでは電圧がキャリアだけの場合の2倍になりますから電力では4倍6Wの出力が必要ということになり、FT-817シリーズの5W定格では所詮100%変調を掛けられないか出力を下げる必要があることが判ります。

次にオールモード機特有のALCの問題があります。
SSBではオーディコンプレッサが働いたのと同様で信号に大きな影響が無いのですが、AM信号に対してALCが働くとキャリアまで抑圧してしまいます。
いわゆるシャックリ現象です。
実機を調べてみると出力2.5W位からALCが効き始める様子ですので、AMの変調ピークで2.5Wあたりが目処ということが判ります。

マイクゲイン設定も問題です。
付属マイクを使い、オシロスコープで見ながら話すと変調時に基線が見事に出ています。
過変調の典型的な波形で、音声レベルが高すぎることを示しています。

これらから考えるとAMは設計段階であまり検討されてない気がしますね。

2 対策のための調整
 原因の推定できていますし、低電力変調での調整ポイントは他機種も含めて送信部の実力に合わせたキャリヤとマイクゲインのレベル調整に尽きます。

1)キャリヤレベル調整
 ・アライメントメニューのAM CARで無変調時出力を600mW程度に低減する
  ALCが2.5Wくらいから効き始めることから約1/4に決めた
 ・出力設定の温特が悪く±100mWくらい普通に変動するので精密に合わせても仕方が無い
 ・Poメータで無変調時2目盛り程度
 ※初期値は記録しておかないと元に戻せなくなる

2)マイクゲイン調整
 ・オシロスコープでAM MICを基線が出ずピークがキャリアの2倍以内に調整する
  音声入力は付属マイクを使用する(入力の基準値がわからないので目安として使用)
 ・FT-817NDのALCメータがほぼ振れないところまで絞る方法でも一応の調整は可能
 ※リセットすると変更した値が工場設定値に戻るので再設定が必要

この調整で割れた感じの音とシャックリは無くなるはずです。
ALCの動作を多少許容するところまで設定レベルを上げると、出力と変調度を上げる方向での調整もある程度可能です。

3 組み合わせ調整
 FT-817NDの調整後に本記事ユニットの調整が必要です。

調整は、本体に取り付けてオシロスコープを見ながらピーク・基線側とも付属マイクで調整した時と同じになるよう、ユニット内のボリウムを調整するだけです。
FT-817NDのPoとALCメータを使用してもある程度調整できるかもしれません。

どちらにしてもモニターで送信音を聞きながらが良いですが、ユニットの有無でかなり音量が違うので、音量だけでは正しい調整はできないと思います。

パワーを下げた不利を変調度である程度補えると期待しています。

AMポータブル機用ALCユニット(ver.3) 実装記事は→こちら 2014.9.12
 6mAM-DDSポータブル機用に回路を変更した新ALCユニットです。
 FT-817で使用した回路はFET-SWでマイクアンプのゲインを制御する方式で、電源投入から定常動作になるまで若干時間が掛かります。
AMポータブル機用では入力回路を短絡する方式に変更して電源投入からTA2011Sがすぐ立ち上がるようにしました。
この変更でマイクアンプの利得を設定する端子がフリーになりましたので、ALC機能のON/OFF切替も復活しました。
(図をクリックすると拡大します↓)


                                                  (C)JA1VZV 2013.2
                                                  2014.09.12最終更新


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