以前CQ誌に載っていたケンウッド機からアイコムAH4を操作するインタフェースを作れないかという相談があり、回路を見直して新たに製作したインタフェースを紹介します。 
       
      * 今回の対象機はケンウッドTS-690で、AT-300用端子から本I/Fを介してAH4と接続します 
      * タイトル写真は試作時のものです。 
       
      1 オリジナルの回路を検討する  このI/FについてはCQ誌2004年4月号に掲載されていますが、さらに調べるとMods.dkに2003年1月に掲載された設計の経緯、動作説明、手書きの回路図が見つかりました。 
      下の回路図がそれで、作成者はVK6KPS Phil、2002年11月の日付があります。 
      その他CQ誌の記事をもとに改良されているネット記事もありますが、ここでは下図の回路を対象に検討を進めます。 
       
      ↓クリックすると大きな画像になります 
      
       このインタフェースは次の一連の動作をすることが分かりました。 
      1) ケンウッド機からATUの動作を指示する"TS"信号が出ると、ワンショットマルチ1がトリガ 
        され、アイコムATUに"START"(=L)パルスを送る。 
      2) 同時に"TS"信号がアナログSWを通して"TT"信号としてケンウッド機に返り、送信指示と 
        なる。  * "TS"はチューニング動作中アクティブ(=L)を維持される。 
      3) ATUのチューニング動作が終わると"START"でLになっていた"KEY"信号がHに戻り、ワ 
        ンショットマルチ2がトリガされる。 
      4) このパルスで"TS"-"TT"間のアナログSWが一時的にOFFとなり、"TT"がHになる。 
      5) "TT"がHになるとアナログSWがOFFの期間内に"TS"がHに戻るので、"TT"はHを維持 
        する。 
       
      この動作手順では、ATUの有無にかかわらず"TT"が出ますので、出力は低減されますが送信したままになってしまいます。 
      タイミング図の上段がこの動作を示します。 
       
      その他の回路を見ていきますと 
      1) 三端子レギュレータの前にあるツェナーと抵抗は車載時のサージ防止用(記事の説明に 
        よる) 
      2) "TS"入力となるCMOS-ICのピンが直接外に出ていて静電破壊の危険がある。 
      3) 同回路にはプルダウン抵抗がないので未接続時はオープンになってしまう。 
      4) "KEY"入力となるCMOS-ICについてもプルアップと直列抵抗の比率から、十分にLレベル 
        に落ちないため、閾値のバラツキや外部回路の抵抗などでトリガできない可能性がある。 
      5) ワンショットマルチにパワーオンリセット回路がなく通電時の動作が保証されない。 
      6) 未使用の入力が(回路図上は)処理されてない。 
       
      といった考慮すべき点がありました。 
      CQ誌の記事は見かけは変わってますが丸写しなんですね。 
      
        
          
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            オリジナル回路のタイミング図です。 
             
             
             
             
             
             
            3)項で再設計した回路のタイミング図です。 
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      2) 回路の設計方針 
       改めて回路を設計するに必須の機能は次の4つだけです。 
       
        1) "TS"から"START"パルスを作りアイコムATUを起動する。 
        2) "TT"をケンウッド機に送り返し送信を指示する。 
        3) ATU動作中は"TT"をLレベルに維持する。 
        4) ATU動作終了("KEY"がHに復帰)時に"TT"をHレベルに復しATU動作終了を伝える。 
       
       このなかで1)はオリジナルと変わるところはありませんが、2)〜4)についてはどの信号を元にするかで回路が違ってきます 
       
      オリジナルではATU未接続の場合に送信状態になったままという問題がありますので、送信指示"TT"はATUからの送信指示である"KEY"から生成したほうが安全と考えました。 
      サービスマニュアルによると"TT"と"KEY"は共にアクティブLで論理条件が同じですし、どちらも出力回路はオープンコレクタと対応する入力回路ですから、直接接続できる点も好都合です。 
      タイミングの問題は後述します。 
      "TT"と"KEY"を接続する方法にするとオリジナルで必要だったアナログSW素子とワンショットマルチが1回路不要になりますので、この方針で進めることにしました。 
       
      3)詳細設計 
       設計上の条件を次の通りとしました。 
      基本的な回路はオリジナルから一部を省き、入力保護のトランジスタを追加する程度で済みます。 
       
       1) "TT"と"KEY"を直結する。 
       2) ワンショットマルチは1回路だけ使うので、不使用分は入力を接地処理。 
       3) "TS"入力保護にPNP型デジトラを追加。 
       4) 入力にパスコンを入れノイズ対策を行う。 
       4) PNPデジトラからの電圧がケンウッド機に影響を与えないよう、電源電圧を5Vとする。 
       5) 定電圧電源で使うということなのでサージ防止回路は外す。 
       6) "START"ドライブ用のトランジスタを部品数削減のためデジトラに変更。 
       7) ワンショットマルチの時定数(目標値)を750mSとする。 
         サービスマニュアルによると"START"は最短530mSで、チューニング終了まで 
         810mS〜2.25Sとなっているので、"START"発生中に"KEY"が復旧しない範囲とした。 
       
       8) 三端子レギの逆電圧防止ダイオードは5V側のキャパシタンスがそれほど大きくないので 
         省略。   (実装場所に余裕があれば入れた方が安心だが) 
       
      回路を決めて試作(タイトル写真)し動作試験を行ったところ、ケンウッド機が送信になりません。 
      ポンポンと2度押しすると働くことから"TT"を発生させるタイミングが遅れると不送信になるらしいことが推定されました。 
      対策として"START"-"TT"間にダイオードを入れ(回路図左下のダイオードです)、"START"でも"TT"を引くように変更したところケンウッド機が確実に送信するようになりました。 
      残念なのはATU未接続でもパルス幅分はケンウッド機に対して送信要求が出てしまうことですが、出っ放しよりは良いかと・・ 
      タイミングチャート下段を参照ください。 
       
      ↓最新版の回路図 クリックすると大きな画像になります 
        
       
       実際にTS-690とIC-AH4を接続して使ってもらっていますが問題なく動作しているとのことです。 
      同じI/Fを持つTS-50/TS-480等とIC-AH3/AH4の組み合わせでも使用できるはずですが実機確認はしていません。 
       
      ↓ユニバーサル基板への部品配置例です 
        
      同じように作られても使った部品の誤差や、使用場所でのアンテナの状態や引き回しによる回り込みなど設置環境によって正常に動作しない場合もありえます。 
      製作して使用される場合は自己責任でお願いします。 
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